以前から気になっていた「鋏紋(はさみもん)」。
わたしがもしも江戸の町屋で縫子をしていたら、鋏紋の看板を出すだろうと
想像したりしていました。
鋏は、刃物ですので、わたしが自分の紋として使うには少し「とんがっている」
とも感じていました。
紋帳にある「丸に鋏紋」では、遊びもない。
主人に、鋏紋、いいですね、と言いますと、お前が使うのか、と。

現在、ひょうたんの「ぶん屋」印を、誂えたものには、必ず「ぽち」と押させて
いただいているのですが、こちらがとても好評です。
ぶん屋を始めてから、この印が、ずっとそばにいてくれます。
商品ができると、印を布用のインクで押し、アイロンで定着する。
色は、紺か、朱、茶がほとんどで、濃い色の布の場合は白も使います。
3年前、初めて「しあわせ袋」を飛騨で出品させていただいたときに、
ぶん屋で作ったものが、世に出て行くときに、なにか印を、と考えて、
とっさに彫った消しゴムはんこなのです。
ぶん屋の商品は大量生産はできませんが、そのものを見れば、ぶん屋のもの
とわかる。
そして、その証拠に「ぶん屋」印が打ってある。
ありがたいことに、ぶん屋で「誂え」をいただくお客様は、常連になって
下さることが多いです。
「ぶん屋」印のものがお手元にいくつもある方もいらっしゃいます。

今度作った、あずま袋も、「ぶん屋」印がアクセントになっていると自画自賛です。
この印、そろそろ変えてもいいかもしれないね、という話にもなって、
一歩進んで、ご存知の方だけが「ぶん屋」印とわかるものがあっても
いいんじゃないか、ということで、主人に考えてもらったのが「鐶輪に鋏紋」。
主人のブログは「ぶん屋の抽斗(ひきだし)」。
ぶん屋は小さい小間物屋ですので、商品を店内に並べてあるわけではなく、
「何をご覧に入れましょうか」とお尋ねしまして、お客様のご覧になりたいものを
箪笥(たんす)の抽斗より、お出ししています。
箪笥には、引き手の金具が付いています。それが鐶です。
鐶を輪につなげまして、その中にお針箱にある鋏を入れました。
お針箱で誂えた品が、抽斗にそっと納められます。
心を込めて作ったものが、箪笥の抽斗でお客様のお越しをお待ちしている。
そんな意味を込めた紋ができ上がって、嬉しい限りです。