棟方志功の妻 チヤ

棟方志功の妻 チヤ
(門世の柵 昭和43年)

先日、フジテレビ系で放映された宗像志功。
劇団ひとりが好演だった。主人は渥美清のものも見たことがあるらしく、
そちらも見たくなっている。妻チヤ役は、香椎由宇。
わたしにとっては、初めての棟方志功ドラマ。十分見ごたえがあった。

棟方志功展が浜松美術館で催されたとき、主人と見に行って、作品の勢いに
怖気づいたことを覚えている。
大きな版画から、せまりくるもの(オーラというのか)があって、
覚悟を決めないと近寄れない。
あれを彫った人の物語というので、楽しみにしていた。

見てみれば、棟方志功の物語は、妻チヤなしでは語れなかった。

妻の赤城チヤは、志功の幼馴染が、「面白い男がいるから」と連れてきた
看護師だった。
夢中になると、周りが見えなくなる志功は、デート代わりに写生へ
連れて行ったチヤに持たせた墨つぼへ、筆を突っ込む度に、チヤの手を汚す。
真っ黒になっていく自分の手を見て、チヤはおかしくて笑う。

ねぶたの上に登って、志功は酒の勢いも借りて、チヤへ求婚。
しかし、祝言を挙げることもなく、志功は東京、チヤは青森の棟方家、
と別の生活。

賞を取って、絵が売れるようになったら東京へ呼ぶから、という
言葉を信じて、じっと待つチヤ。

後に亡くなってしまう病気のお姉さんに、チヤが
「なんで、いっしょになったの」と聞かれたときの返事。
   「あの人には誰か支える人が要ります。
    わたしがその人になろうと思って。わたししかいないと思って。
    わたしがきっとやってみせる、と思って。」


東京で暮らし始めても、志功が「先生」と呼ぶ人が来るときには、
「わたしのような未熟者が家族を持っているのは恥ずかしい」と、
子供もろとも追い出され、近くの神社で時間をつぶすことも。

版画を刷るための墨を磨るチヤ。
夫婦で真っ黒になりながら、一生懸命版画を彫り、刷る。

仏像を版画へ彫るようになって、志功が京都へ仏像を見に行きたい、と言い出す。
迷わず天袋のへそくりを取り出して「これで行って来なさい」というチヤ。

娘が病気になって、電報を受け取って帰ってきた志功に、
娘の病状が落ち着いたことを確認して
「京都へ帰りなさい。まだ勉強が終わってないんでしょ」と追い返す。

ドラマ終盤、夫婦で言い争いになったときに、志功がチヤに
「お前には宗教がない!」と言った事に対し、こう返す。

   「わたしにだって宗教はあります!
    わたしにだって宗教はあります!わたしの宗教は、わたしの宗教は・・・
    わたしの宗教は棟方志功です!!」

* * * * * * * * * * *

ドラマの最初から最後まで、ずっと二時間泣いていて、げっそりくたびれてしまった。
わたしは、主人をずっと支えてきたつもりだが、心にしまっていた言葉がいくつもある。
そのいくつかを、そっくり自分が聞いてしまった。
泣けて泣けて仕方なかった。テレビの前で、主人の横で、号泣した。

わたしたち夫婦の仲がいい、とうらやむ人は多いが、
わたしの宗教は、主人である、と言い切れる妻であれば、きっと夫婦は
うまくやっていけているはずだ。
主人も、自分の妻の信じる宗教が、自分自身だと知れば、間違うまい、と
懸命に生きるはずだ。

苦労なんて、しないで済むのなら、しないまま死んでいくことができれば、
それは幸せだ。
しかし、同じような苦労がなければ、人の苦労を心から労うことはできない。

思い出せば苦労もあれど、でも、楽しかったよね、と今振り返ることができるのは、
ひとりで超えてきたのではないからだ、と、テレビを見た翌朝、
ぱんぱんに腫らした目で、顔を見合わせて笑ったのだった。


同じカテゴリー(大切なもの)の記事
手織りの暖かさ
手織りの暖かさ(2009-10-05 15:05)

はんこ猫会議
はんこ猫会議(2009-07-06 20:01)

この記事へのコメント
こんにちわ。
私もドラマ観ましたよw
芸術の世界には子供の頃から興味があり
棟方志功には個人的にも興味があったので
楽しみにしていました。
劇団ひとりさんの演技、素晴らしかったですね。
香椎由宇さんのチヤ役も。
日本が世界に誇る棟方志功と言う人物は
チヤの存在あってのものだったのかなと思いました。
夫婦の形というものは人様には見えないもので
それぞれに違うのですね。
志功とチヤ夫婦も、はたから見れば苦労が多く、
何が幸せなのか分からないのかもしれないけど
この人だ、と信じ支え続ける事がチヤにとっての
幸せだったのかなとも思います。
裕福だから、相手が優しくしてくれるから・・・
目に見える幸せも大事かもしれませんが
見えない所にこそ夫婦の固い絆あるように思います。
(おっと。偉そうに言ってしまいました・・・私は寂しい独身ですが)
あきさんの言葉の中には
どんな記事でも心からの本物の言葉があるように思います。
真の心からの言葉たちだからこそ
いつも読んでいてスルリと心に入ってくるのでしょうねw
毎回、楽しみにしているので頑張ってくださいね☆
(毎回長々すいません・・・)
Posted by 茶坊 at 2008年10月30日 16:54
茶坊さん

わたしの渾身の記事にいつもコメントをありがとうございます。

>志功とチヤ夫婦も、はたから見れば苦労が多く、
>何が幸せなのか分からないのかもしれないけど
>この人だ、と信じ支え続ける事がチヤにとっての
>幸せだったのかなとも思います。

本当に、そのとおりです。
しかも、はたからは、案外苦労は目に付かず、いいところばかりを
うらやまれるものなのです。

>見えない所にこそ夫婦の固い絆あるように思います。

そうなのですよ!!
だから、はたからはわからないし、説明することも難しいのです。
歴史がその絆を支えています。
そして、説明してもきっと全部は分からないから、説明する必要もないのですけどね。


わたしの「こころもち」や「たいせつなもの」の記事は、
心の底から言葉を搾り出しています。
茶坊さんの心に届いたのであれば、本当に嬉しく思います。
発信する以上、読んでくださる方の心に響くものを届けたいです。

たくさん記事は書けないのですが、これからも地道にやっていきます。
今後も応援お願いします。
Posted by ぶん屋あき at 2008年10月30日 20:33
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

写真一覧をみる

削除
棟方志功の妻 チヤ
    コメント(2)