幸田文「きもの」

幸田文「きもの」
幸田文は、幸田露伴の娘で、露伴の没後、物書きとなった人です。
向島育ちの江戸っ子で、露伴先生のキビシイしつけで「ちゃんと」している。
すっとした生き方と、縞や格子の着物好き。
娘さんの「青木玉」さんによる「幸田文の箪笥の引き出し」がきっかけで、
幸田文さんの代表作である「きもの」を読みました。
何度も何度も読み返している、大好きな本でもあります。

主人公「るつ子」は、三姉妹の末っ子で、どうも着物にうるさい。
それも着心地や肌触りが重要で、時には癇癪も起こす。
姉たちや母親には理解してもらえず、おばあさんだけがるつ子の本心を
ズバリと当てた。

るつ子が少女から大人の女性になっていく中で、環境の変化や時代の変化に
翻弄されながら、それでも軸はきものにある。
実は未完成のこの小説、この装丁にも物語があります。

玉さんがお嫁に行かれるときに、お母さんである文さんが、黒の羽織を
あつらえてくれます。
ところが、黒はまだ似合わない。悩んだ挙句に、かわいらしい花柄を
袖にはめてくれたのです。玉さんは大変嬉しく、お気に入りになったそうです。
「黒が似合う歳になったら外せばいいから」といわれた花柄が
お母さんの心遣いが嬉しく、いつまでも外さずにいたのです。
「きもの」を発刊することになって、お母さんの着物から装丁のアイデアを、と
悩んでいたところ、齢を重ねたお母さんの着物よりも、この羽織の袖が
大人の女性への階段を上がり始めたるつ子に似合う、と、ひらめきます。
お母さんの自伝的小説といわれた「きもの」のるつ子に、娘である玉さんが
心づくしの羽織を「どうぞ」と着せた、そんな装丁になっています。

作品は、作り手の命のかけら。人生の一ページを切り取ったものだ、と
感じるエピソードでした。



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