ぶんやと入ったひょうたん




「おまえ、半纏縫えるか」

「縫ったことはありませんけど、多分できると思います」

「よし、じゃ半纏屋やるぞ」

主人が言い出したそんなひと言で、「ぶん屋」は生まれました。
ぶん屋はこのとき、まだ卵。名前も付いていません。

「店の名前は『ぶん屋』にする」

「あら、いいところを思いつきましたね」

「そうだろう」

主人は、在日韓国人でして、日本名は村上を名乗っていますが、本名の姓は、
「文」(韓国読みで「ムン」)と言う。
日本で読んだら「ぶん」だ、と。

「ぶん屋・・・。音もいいと思います。他にも無いですし」

「『ん』と跳ねるのが縁起もいいしな」


画して、ぶん屋の卵は孵りました。
もちろん、それだけで、まだ実態は全くありません。

「筆ペンあったかな」

「何するんですか」

「書いてみる」

そういうと、広告の裏に、ぶん屋、ぶん屋、と何度も書く。
あっという間にインクが切れてしまいました。
見かねて、筆と硯と墨を用意しましたら、お習字のごとく、毎日
ぶん屋を何枚も書く。

そのうち、ぶん屋のまわりをぐるっと囲み始めまして、
「ほら、『瓢箪(ひょうたん)にぶん屋』だ。どうだ」と。

わたしたちは、それがとっても気に入って、うまく書けたものを、
壁に貼ったりしておりました。
毎日書くので、今日の一番と昨日までの一番を比べて、良いほうに替えたりして。



ある日、広報はままつを読んでいると、「瓢箪に名入れします」とある。
フラワーパークに、千成瓢箪があって、瓢箪がたくさん成る。
まさに、千成ですから、山ほどなるようなんです。
瓢箪が小さいうちに、傷をつけると、そのまま名前を彫ったような瓢箪が
できる、というわけです。
「ひらがな」のみでしか受け付けてもらえないのは、細かい部分が瓢箪の
成長とともに埋まってつぶれてしまうから、とのこと。

ぶん屋の瓢箪が欲しい!とわたしは思い、主人と、わたし、息子の名前で
はがきを書き、応募しました。抽選なんです。
どのくらい応募があったのか、当たったのは、主人の名前のはがきだけ。
私の名前と息子の名前のはがきは、「抽選にもれました」との返事。

主人の名前で当たった、というのも嬉しくて、わたしは一人で興奮していました。

時は過ぎ、いよいよ瓢箪の収穫ということで、フラワーパークに召集が
かかりました。
およそ100名ほどの親子連れがいらっしゃいました。
大抵は、お子さんの名前を彫ってもらっている。

「○○さん」「××さん」と、彫った名前で呼ばれて、「はい」と取りに行く。

「ぶんやさん」「はい」
取りに行くと、2つの瓢箪がもらえました。
「これは大きくなりましたねぇ。しかも、2つとも収穫になった方は
 少なかったんですよ」
と、職員の方。
瓢箪は、ひとつの名前で2つずつ、みんなの分を彫ってくださった。
それは、1つが実にならない場合があるから保険ということでした。
確かに、1つしかもらっていない方もあり、また、大きさも様々でした。

子連れじゃない夫婦はわたしたちだけ、「ぶんや」と入った青々した瓢箪を
大事に両手に持って、ほくほくしてうちに帰りました。

中身を腐らせて抜く説明書をもらってきたので、早速腐らせる準備を。
アパートの1階に住んでいたのをいいことに、外へ置いて、腐らせました。
数週間で見事に腐り、よーくよーく洗って、写真の瓢箪になりました。

お店の隅、鏡台の上の梁にそっとかかっています。
世界に2つだけの「ぶんや」と名の入った瓢箪。
目立たないものですが、わたしにとっては思い出深い瓢箪なのです。




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この記事へのコメント
あきさん、こんにちは。
お二人が大事そうに瓢箪を持ち帰る様子が
思い浮かんで思わず微笑んでしまいました。

腐らす間、毎日何度も何度も眺めていたんでしょうねw
機械で作られたものではなく、
自然の力で出来た素晴らしい作品ですね。
とってもとっても価値のあるものだと思います。

またひとつ、ぶん屋さんを知る事が出来ましたw

そろそろあきさんの季節ですね(笑)
まだまだ日中はなっちゃんを感じますがwww

季節の変わり目ですので、
体調に充分、気をつけてお過ごし下さい。
Posted by 茶坊 at 2009年08月26日 13:34
お店にうかがった時には気がつきませんでした。

世界に二つのひょうたん、宝物ですね。
Posted by けいこさんけいこさん at 2009年08月26日 21:55
茶坊さん

コメントありがとうございます。
大変だった時期に、このひょうたんには励まされました。

腐らせている間は、地味に臭かったです。ちゃんと出来るか心配で毎日覗いてました。

今朝は涼しかったですね。昨夜、主人が布団を出してくれて正解でした。
Posted by ぶん屋あき at 2009年08月27日 06:17
けいこさん

コメントありがとうございます。
このひょうたんを見ると、いろんなことを思い出します。
初心を忘れずに行きたいと思います。
Posted by ぶん屋あき at 2009年08月27日 06:22
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