捨て猫・捨て犬ゼロの会のmakotakuさんから依頼されて、数年前に書いた物語です。猫たちの実際の生い立ちを交えて書きました。四匹目のふゆはまだいないときに書いたので、はる、ちょび、なつと、村上さん夫婦(かなり素敵な夫婦にデフォルメ 笑)が出てきます。
紙芝居風に、との依頼で、せりふ仕立てになっているため、少し読みづらいですが、わたしの大切にしている作品ですのでお時間があれば読んでみてください。
大きく描かれた三匹の絵を貼り出して、小学校で読み聞かせをやってくださったと伺っています。
写真の真ん中が「はる姉さん」、左が「なつ」、右が「ちょび太」です。
では、どうぞ。
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はる姉さんは野良猫出身の三毛猫で、村上さん家(ち)を住み処(すみか)にしています。
同じく村上家には、白黒猫のちょび太、キジトラ猫のなつが暮らしています。
三匹は、兄弟のように仲良しですが、もとはみんな、ばらばらのみなしごの捨て猫でした。
今夜も村上さん夫婦が寝静まった後、猫会議のために三匹が集まったようです。
(はる) 「ちょび太になつ、猫会議を始めるよ。なにか話したい議題はあるかい」
(なつ) 「はるお姉さん、なつはお母さんに会いたい」
(ちょび太)「ぼく、お母さん知らないよ」
(はる) 「…悪いけど、なつ、お前のお母さんは、もういないよ」
(なつ) 「えぇっ?どうして?どこかに行っちゃったの?」
(はる) 「そうさ。ホケンジョってとこでショブンになったそうだよ」
(なつ) 「ちょび太お兄ちゃん、ショブンってなあに。」
(ちょび太)「ぼく、ショブンって聞いたことあるよ。」
(はる) 「ショブンってのはね、人間がやるんだよ。・・・ちょび太となつは『いのち』ってわかるかい」
(ちょび太)「ぼく、村上さんの奥さんに『お前のいのち、来てくれてありがとう』って言われるよ」
(なつ) 「ちょび太お兄ちゃん、それ、なつも言われる。『いのち』ってあたしたちの中にあるもの?」
(はる) 「お前たちもかい。あたしもいつも言われるよ。『いのち』ってのは、あたしたち自身のことかもしれない。そして、人間にも、犬にも、鳩にもある。『いのち』があるからこうして話しもできるし、走ったり遊んだりもできる。美味しいかつぶしも味わえる。しかし、爪を切られたり、耳を掃除されたり、辛いこともあるのが『いのち』さ。『いのち』はね、神様からみんなひとつずつ預かっているもんだ。」
(なつ) 「ふぅん。抱っこして、いいこ、いいこしてもらって嬉しいのも『いのち』があるからってことね」
(はる) 「そうさね。で、ショブンっていうのは、『いのち』を消すことだ」
(ちょび太)「『いのち』を消す?ぼくの『いのち』、消したらどうなっちゃうの?」
(なつ) 「『いのち』って神様から預かっているんでしょ、消してしまってもいいの?」
(はる) 「『いのち』は消したら二度と戻ってこない。世界中の生き物、みんなにひとつづつの『いのち』って言っただろう。同じ『いのち』は無いんだよ。もちろん、『いのち』は、理由なく消してしまってはいけない。」
(なつ) 「お母さんの『いのち』、消えちゃったんだ…」
(ちょび太)「ぼくらもいつかショブンされるの?」
(はる) 「いいかい?『いのち』はいつか必ず終わる。だけどそれはショブンとは違うんだ。あたしたち猫は、よくしてくれる人間と『いのち』が終わるときまで暮らすのが幸せなんだ。ショブンてのは、人間にじゃまだと思われる猫たちに起こる、悲しい出来事だよ。お前たちのお母さんは野良猫で人間とはやっていけなかったからね」
(なつ) 「コワイー。なつ、ショブンはイヤーッ」
(はる) 「あたしだってコワイさ。たまたまあたしたちは、拾われたとき子猫だった。で、村上さんの夫婦はショブンになる前に、あたしたちを引き取ったんだ。人間とやっていくには、大人になってしまった猫だと難しいからね」
(ちょび太)「ぼく、人間に拾われたときのこと覚えてるよ。一緒にいた大人の猫はショブンって人間が言ってた。ぼくは、子猫の仲間とどこか(病院)に連れてかれたんだ。そこに村上さんが来た。ぼく、村上さんのことすぐ好きになったよ。村上さんは、ぼくをじっと見て『家に来るかい?』って言ったの。ぼくは、すぐに『行くよ』って言ったんだ」
(はる) 「お前さんが来たときには、びっくりしたよ。猫はあたし一匹で十分だとおもってたからね。しかし、どうだい。仲良くなってみりゃ、こんなに心強いことはないよ。なにしろ、ちょび太は体は小さいが男だし、自分以外の『いのち』がそばにいるってのは暖かいもんだ」
(ちょび太)「ぼくたち、仲良しになったら、なっちゃんが来たね」
(はる) 「なつは、ちゃんとご挨拶ができたし、礼儀もわきまえていたから、すぐに仲良くなれたんだったね。」
(ちょび太)「ぼく、なっちゃん好きだよ」
(なつ) 「なつもちょび太お兄ちゃんとはるお姉さんのこと大好き」
(はる) 「よしよし。あたしたちは、寄せ集めの『いのち』だからね、仲良くやっていこうじゃないか。さて、今夜の猫会議はこれで終わりだよ。解散」
解散と言っても、村上さんの家から出ることはない三匹です。
それぞれ気に入った場所で眠りに就きました。
村上さん家は交通の激しい通りが近くにあって、朝早くから夜遅くまで、ひっきりなしに車が通ります。表に出ないのが安全と判断した村上さんは、猫たちのために、外へ出ることは禁じたからです。
朝になって、窓を開けながら奥さんが言いました。
(奥さん)「ほら、猫たち。外が見えますからね。みんな、表にでちゃだめですよ」
(なつ )「はるお姉さん、なつはお外がコワイ」
(はる) 「そんなら遠くから見てな。無理することはないさ」
村上さんの夫婦が、朝ご飯を食べながら、何か話しています。
(奥さん) 「先日、保健所に勤めてる人と話をしたんです。」
(村上さん)「あぁ。保健所は、猫や犬を処分するとこだとみんなに思われてるから、悩みごとは尽きないだろうな」
(奥さん) 「そうなんです。その方は、保護猫の飼い主探しをしている方で、やっぱり人知れず増えてしまう命に対してなんらかの活動をしなくては、と言ってらしたわ」
(村上さん)「募金を集めて、地域猫を捕獲しては避妊手術をする団体もあるようだね」
(奥さん) 「外に自由に出られる飼い猫たちも、去勢をしていないと、望まない妊娠をしてしまったり、させたり、怪我や病気を拾ってきたりと心配は尽きませんね。」
(村上さん)「拾うと言えば、この間、子どもが捨て猫を拾ってきて困ったという親がいてね。」
(奥さん) 「命に対して最後までの責任が持てないと、『その猫を飼おう』とは宣言できないわね」
(村上さん)「子供が拾ってきたものを、大人が『じゃまだから捨てろ』とも言えないしな。それに、猫も生きてりゃ病気にもなるし、うちにみたいに三匹もいると餌やら砂やらにかかる費用もばかにならないからな」
(奥さん) 「でも、処分されてしまうかもしれなかった命ですから、うちで幸せなニャン生を送ってほしいわ」
(村上さん)「なんだ、そのニャン生ってのは。」
(奥さん) 「人の一生が人生なら、猫の一生はニャン生でしょ」
(村上さん)「なるほど。そいつはうまいや」
はる姉さん、ちょび太、なつは、今日も外を眺めたり、三匹で転がって遊んだり。
お腹が空けば村上さんにご飯をもらい、暖かい寝床で心配事なく眠ります。
(ちょび太)「はる姉さん、ぼくお腹いっぱいだよ。寝るよ」
(はる) 「よしよし。顔を舐めてあげるからおいで」
ちょび太は、お母さんを知らないからか、眠るときにはいつもはる姉さんに甘えています。
(ちょび太)「ぼく、気持ちよくて眠くなってきた。」
(はる) 「ここは安全だからね、心配しないでおやすみ。あたしも寝るとするよ」
なつは、と見れば、すでにぐっすり夢の中。村上さん夫婦がそっと頬をなでました。
(奥さん)「お前たちのいのち、ありがとうね。お前たちのニャン生、うちに来て幸せかい。」
なつは、気持ち良さそうに、ごろん、ごろんと寝返りをうちました。
(奥さん) 「あらあら、お腹を出して。なつはぐっすりだわ。」
(村上さん)「安心している証拠だね。かわいい猫たちのいのち、最後まで見守らなきゃいけないな。」
(奥さん) 「そうですね。」
(村上さん)「神様から預かっている『いのち』は、いつ終わるかわからないのは、人も猫も同じだからね。処分される『いのち』が、ひとつでも助かるように、じゃまにされる『いのち』が、ひとつでも減るように。そのために、人間は何ができるかを考えなくちゃいけないね」
(奥さん) 「ほんとうに。あら、見てください。はるとちょび太は抱き合って寝てますよ」
村上さんは、にっこり笑って奥さんを見ました。
奥さんも、村上さんの笑顔を見てにっこりしました。
はる姉さんが、ゆっくりと寝息を立て始めました。
(おわり)