はる姉さんが教えてくれた

ぶん屋あき

2009年03月11日 11:42




「なっちゃん、困ったことがあったら、はる姉さんに聞くといいよ」
ちょび太がお兄ちゃんぶって言いました。

なつは、まだ、ぶん屋に来て半年、の新入り。
ちょび太は、2006年に来たからもう3年近く、
はる姉さんは、2004年に来たからもう5年近くの先輩ねこです。
「ぼくね、来たとき、毛づくろいが上手じゃなかったんだ。でも、はる姉さんが
 教えてくれてできるようになったよ。」

「そうなの?なつは、毛づくろい最初っから上手よ。」

「ぼくね、戸が開けられなかったんだよ。でも、はる姉さんが教えてくれて
 できるようになったよ。」

「そうなの?なつも今度おしえてもらおう。」

三毛猫のはる姉さんは賢いねこで、ぶん屋の夫婦も一目おいています。
夜、ぶん屋夫婦が寝静まるころ、ねこたちは、おいかけっこをして遊んでいますが、
実はその後の会議に気づかれないため、騒いでおくのです。

「ほら、ちょび太になつ。ぶん屋の夫婦は眠ったようだよ。会議の時間だ、集まりな。」

「ぼくちょび太だよ。」

「あたし、なつです。」

「そろそろ、暖かくなってきたから、窓の開く回数が増えるよ。
 窓の外には、鳩やらスズメやら、いろんなものが見えるから、よく見ておくんだよ。
 ときどき、ご近所のねこたちも、そばに来るから、ご挨拶を忘れずにするんだよ。」

「ぼく、この前、お外に出たよ。また出たいな。」

「ばかだね、ちょび太。おまえさんは、外の世界を知らないだろ。
 そんなやつが外に出ても、怖いだけさ。
 おまえさん、この前は身がすくんで動けなかったじゃないか。」

「うん。ぼく怖かった。ぶん屋さんが『ちょび、ちょび』って呼んでくれたから、
 『ハイ、ハイ』って一生懸命お返事したよ。やっぱりお外は怖いな。
 でも見てたら出たくなっちゃうんだよ。」

「はるお姉さん、お外って怖いの?」

「なつは、外で暮らしていたことがあるんだろ。じゃあ、車って知ってるかい?
 このあたりは、車の通りが激しいから、危ないのさ。
 少し向こうの通りでは、しょっちゅう仲間が死んでるらしいよ。」

「くるま・・・。なつ、車ってわからない。」

「そうかい。じゃぁ、外は出ないようにしておくんだ。」

「ふーん。はるお姉さん、窓が開いたら『車』って教えてね。」

「あぁ、いいともさ。」

「さて、今日の会議はこのくらいで終わりだよ。何か困っていることはあるかい。」

「ぼくね、ぶん屋さんがいなくなると、『おーい、おーい』って呼ぶよ。」

「あぁ、あれはうるさくてかなわないよ。ぶん屋夫婦は、ほっときゃ帰ってくるから、
 黙って待ってりゃいいのさ。」

「でも、ぼく、呼ぶよ。『おーい!おーい!』」

「なつは、戸の開け方をおぼえたいの。」

「戸の開け方ね。ちょびはできるようになったのかい。」

「ぼく、できるよ!」

ちょび太は、小さいねこなので、戸を開ける力が少し足らなくて、やっと最近、
引き戸が開けられるようになりました。

「よいしょ、よいしょ。こうやって少しずつ間を開けて、片足が入れば、こっちのもん。
 肩までぐっと入れてっと・・・。」

ガラッ。

「うまいじゃないか。よくできたね。なつもやってごらん。」

「はい。」

「こうやって、カリカリして、にゅーっとして、ぐいっ!」

ガラッ。

「できた!はる姉さん、できたよ!」

「ほぅ。飲み込みが早いね。あんたは筋がいいよ。」

「えへへ。ほめられちゃった。」

調子に乗ったなつは、一階へ降りて、閉まっている戸をあちこち開けてみました。
どれも、すぐに開けることができました。

「さぁ、もう冷えてくる時間だよ。ぶん屋夫婦の布団へもぐろう。」

はる姉さんは、さっさとぶん屋さんの腕の中へもぐります。
ちょび太は、おかみさんの足元に丸くなります。
なつは、大好きなおかみさんのそばへ。

おかみさんが気が付いて、なつを入れてくれました。
なつは嬉しくて、喉をごろごろと鳴らしました。
はる姉さんも、ぶん屋さんの腕の中でごろごろ言っています。
ちょび太は、布団の上でコロリコロリ。

「ぼく、ここで寝るよ。」


「おはよう、ねこたち。ご飯ですよ。あれ、部屋の戸が全部開いている。」

ぶん屋のおかみさんが、お皿にキャットフードを入れてくれます。
玄関には、暖かい日差しが。

「いいお天気。きっと暖かくなるわ。」

おかみさんがそう言って、台所から玄関の方を見ると、なつが居間の戸を開けています。
(カリカリ、にゅーっ、ぐいっ。)
ガラッ。

「あなたっ。なつが戸を開けられるようになりましたよ!」

「ええっ?昨日まではできなかったぞ。」

「でも、今、開けるのを見ましたよ。」


「はるー。なつに戸を開けるのを教えたなー!」

はる姉さんは、知らん顔でキャットフードをカリカリ。
ちょび太は、暖かい玄関でコロリコロリ。
なつは、得意げに朝の日差しを浴びてごろごろ鳴いています。

「あたし、もう戸を開けられるんだもん。はる姉さんが教えてくれたんだもん。」

ご飯の終わった三匹は、朝の追いかけっこに興じ始めました。
今日もにぎやかな一日の始まりです。
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